西村良太

西村 良太

准教授 / 豊橋技術科学大学

研究概要

この動画は2009年に公開したものです。タイミングやリズム、韻律などを制御し、自然な対話が可能な音声対話システムを実現していました。 しかし当時は諸技術が十分に成熟しておらず、また、1台のコンピュータ上で動作させるために計算量を削減する工夫が必要でした。 例えば、音声認識は語彙や文法を制限し、出力音声は合成音声ではなく、あらかじめ録音した音声を用いていました。

現在は諸技術が成熟し、大語彙連続音声認識や質の高い音声合成がリアルタイムで実行可能となり、 大規模言語モデルの発展も伴って、より自然な音声対話システムへの期待が高まっています。 このような背景から、さらに力を入れて研究に取り組んでいます。

ちなみに、上記動画に出演しているのは私ではなく、後輩の藤井康寿君(https://sites.google.com/view/yasuhisafujii)です。

人間とシステムとの間で対話自体を楽しむことができるような自然な対話システムの実現を目指しています。 従来の単純な情報検索型システムではなく、人間同士の自然な会話のように、応答タイミング、韻律制御、 視覚的表現を統合した次世代の音声対話技術を研究しています。

220+
研究論文
20+
研究年数
50+
国際会議発表
8
主要プロジェクト

主要研究分野

1. 応答タイミング制御技術

自然な対話を実現する応答タイミング検出と相槌制御

人間同士の対話における自然な応答タイミングを解析し、リアルタイムで応答タイミングを検出するシステムを開発。 決定木を用いた応答判定モデルにより、「相槌」「復唱」「情報提供」などの適切な応答現象を100ms間隔で判定し、 音声のピッチ・パワーの傾きや発話長、ポーズ長などの韻律情報を活用しています。

特に相槌制御技術では、対話の流れに応じた適切な相槌タイミングの検出と、 状況に応じた相槌の表層選択(「はい」「うん」「そうですね」など)を実現。 これにより、より人間らしい自然な対話応答を可能にしています。

主な技術要素

  • 決定木による逐次的応答判定(100ms間隔)
  • 韻律情報(ピッチ、パワー、発話長)の活用
  • 相槌タイミング制御と表層選択技術
  • 人間対話コーパスによる機械学習
  • リアルタイム処理による自然な対話流

相槌表層選択デモ

相槌タイミング制御デモ

2. マルチモーダル対話システム

音声・画像・テキストを統合した次世代対話

MMDAgentフォトリアルCGエージェントを用いた視覚的対話インタフェースの開発により、 より自然で魅力的な人機対話を実現。音声認識・合成技術と3Dキャラクタアニメーション、 感情認識技術を統合し、表情・ジェスチャーを含む豊かな表現力を持つ対話システムを構築しています。

開発システム・ツール

  • MMDAgent - オープンソース音声対話ツールキット
  • フォトリアルCGエージェント - 高品質3D対話キャラクタ
  • 複数エージェント対話システム
  • 感情認識・表現統合システム
MMDAgent
システム画面

マルチモーダル対話の様子

3. 高齢者向け音声技術

超高齢社会における音声インタフェース

超高齢社会における音声インタフェースの課題に取り組み、80歳以上の超高齢者向け音声認識システム回想療法支援システムを開発。高齢者特有の発話特性を考慮した音響モデルの構築や、 認知症予防・改善を目的とした対話システムにより、高齢者の生活の質向上に貢献しています。

主な応用分野

  • 超高齢者音声コーパス構築・音響モデル開発
  • 回想療法支援対話システム
  • 認知症予防・改善支援システム
  • 高齢者向けスマートフォンアプリ
高齢者音声
認識システム

回想療法システムの利用風景

4. リアルタイム対話プラットフォーム

PRINTEPS: 実用的な音声対話システム基盤

PRINTEPS(実用的知的対話システム基盤)の開発により、ROS連携による実環境での音声対話システム展開を実現。 デジタルサイネージやスマートフォンアプリでの実用化を通じて、研究成果の社会実装を推進。 クラウド連携による分散処理とリアルタイム応答を両立した実用的なプラットフォームです。

プラットフォーム特徴

  • ROS(Robot Operating System)連携
  • クラウド・エッジコンピューティング対応
  • デジタルサイネージ展開
  • スマートフォン・IoTデバイス対応
PRINTEPS
アーキテクチャ

プラットフォーム構成図

5. リアルタイム音声対話システム:DiaROS

次世代リアルタイム音声対話システム

DiaROS(Dialog Robot Operating System)は、ROS環境で動作する革新的なリアルタイム音声対話システムです。 従来の音声対話システムの課題であった応答遅延を解消し、人間同士の会話のような自然でスムーズな対話を実現。 音声認識・対話管理・音声合成を統合的に制御し、100ms以下の低遅延での応答を可能にしています。

DiaROSの特徴

  • 超低遅延リアルタイム応答(100ms以下)
  • ROS統合による柔軟なシステム構成
  • 割り込み対話・同時発話への対応
  • マルチモーダル統合(音声・画像・ジェスチャー)
  • 分散処理によるスケーラブルアーキテクチャ

DiaROSシステムデモ

6. リアルタイムVADレスASR

音声区間検出不要の革新的音声認識技術

従来の音声認識システムでは必須であったVAD(Voice Activity Detection:音声区間検出)を不要とする 革新的な音声認識技術を開発。連続的な音声ストリームから直接認識結果を出力することで、 より自然でシームレスな音声インタラクションを実現しています。

この技術により、発話の開始・終了を待つことなくリアルタイムで認識処理が可能となり、 割り込み発話や同時発話にも柔軟に対応。対話システムの応答性と自然性を大幅に向上させています。

VADレスASRの利点

  • 発話区間検出の遅延を排除
  • 連続的な音声ストリーム処理
  • 割り込み・同時発話への即時対応
  • より自然な対話フローの実現
  • 低遅延リアルタイム処理

VADレスASRデモ

7. クロスリンガル音声処理

多言語対応音声技術の開発

モンゴル語などの低資源言語への音声技術適用を通じて、クロスリンガル学習手法を開発。 データ拡張技術や転移学習を活用し、限られたデータからでも高品質な音声認識・合成システムを構築。 国際的な研究協力により、多様な言語・文化における音声対話技術の普及を目指しています。

技術アプローチ

  • 転移学習による低資源言語対応
  • データ拡張技術(Data Augmentation)
  • Seq2Seqモデルによる音韻正規化
  • 国際共同研究による多言語コーパス構築
多言語対応
システム

クロスリンガル学習の概念

研究の発展

Phase 1 (2004-2009): 基礎研究

人間対話における応答タイミングの分析、韻律情報の解析・モデル化、基本的な対話システムアーキテクチャの確立

主な成果: 応答タイミング検出の基礎理論、決定木による応答判定モデル
Phase 2 (2010-2015): システム開発

雑談指向対話システムの開発、複数エージェント対話、モバイル・スマートフォンアプリケーション、実環境でのシステム展開

主な成果: MMDAgentツールキット、デジタルサイネージシステム
Phase 3 (2016-2020): プラットフォーム化・応用展開

PRINTEPS知的対話システム基盤の開発、ヘルスケア応用(回想療法)、高齢者特化音声技術、国際共同研究の推進

主な成果: 超高齢者音声コーパス、モンゴル語音声処理技術
Phase 4 (2021-現在): AI統合・実用化

深層学習技術の統合、フォトリアルCGエージェント、医療AI応用、リアルタイムマルチモーダルシステム、分野横断応用

主な成果: LSTM応答選択システム、歯科画像診断AI、ROS対話システム

今後の展望

感情・個性の理解と表現

ユーザーの感情状態や個性を理解し、それに応じた応答を生成する高度な対話システムの開発。 個人適応型の対話エージェントによる、より深い人機関係の構築を目指します。

社会実装の拡大

医療・介護・教育分野での実用的な対話システムの社会実装。 特に超高齢社会における生活支援技術として、実際の社会課題解決に貢献する研究を推進します。

国際連携の強化

多様な言語・文化圏での音声対話技術の普及と、国際的な研究ネットワークの構築。 グローバルな課題解決に向けた技術開発と人材育成を目指します。